26日目(創話)

学校の帰り道、途中の角にあるファミレスのそばに、見知らぬおじさんが立っていた。

その人はファミレスのそばに立ち、しかしファミレス自体に入ろうとはしていないようで、しきりに空を見上げては歩き回ったり立ち止まったりしていた。

僕は気になって、つい、その人の視線の先を追ってしまった。

どうやらファミレスの看板を眺めているようだった。

大きめな道路に面しているためか、車を運転してくる人にも遠くから見えるようにするためか、結構背の高い看板がそこには立っている。

その人は看板の足元に立っていた。看板を眺め、回り込み裏も眺め、ちょっと手をかけてみたり、かと思えば少し離れて腕組みして見てみたり、とじっくりその看板を観察しているようだった。

僕も真似してちょっと眺めてみたものの、特に普段と違うような、変な点は見あたらなかった。青空を背景に、いたって普通の、そのファミレスの名前とシンボルが描かれている看板がそこにはあった。

別に普段からよく見ているわけでもないので、変わっていても気づかないのかもしれないけど……店自体は新しいものでもないし、僕だって家族とたまに来る。さすがに何か大きく変わっていたら気づくだろうと思いたい。


「あの、すみません」

いちどは通り過ぎかけたものの、結局思い切っておじさんに声をかけてみた。その人は見慣れなくはあるものの近寄りがたい雰囲気を出しているわけではない。むしろ優しそうに見えた。

「ん?」

振り返ったその人は、警戒するでもうっとおしげにうなるでもなく、ただ自然に僕を見やった。

「あの……その看板、なにかあるんですか?すみません、すごくしっかり見てるなあって。気になっちゃっただけなんですが」

「ああ!ええとね……はは、まいったな」

おじさんは照れくさそうにつるっとした頭をかき、はにかみながら僕に言った。

「そんな大した話じゃないんです。夢に見たんで」

「夢?」

「ええ。しばらく前から何度も見た夢に、こういう看板が出てきましてね。その夢でなにか起こるわけでもないんですが、あんまりにも繰り返すものだから気になって仕方ない。時間ができる度に近所のファミレスから探し始めて、ようやくここにたどり着いたんです」

「じゃあ、これが、その?」

「ううん……。そう、ですね。そうだと思います。見覚えがある。この色あせかたとか、見上げたときの角度とか」

「それは……結構大した話じゃないですかね」

いわゆる、予知夢、というやつなのだろうか。

「でも、だからなに、って感じなんですよねえ」

この先、夢でなにかあったわけでもないし。そう言っておじさんはまた困ったように頭をかいた。

「まあ幸い、見つけただけで達成感はあったんでね。いい散歩のネタになったと思うことにしようかなと」

「……なるほど」

そういうものなのかもしれない。お礼を言ってその場を後にした。

離れてから振り返ると、まだ同じ場所で看板を見上げているおじさんが見えた。


それからしばらく、その道は通行禁止になった。件の看板が倒れたのだ。

老朽化なんてするような様子でもなかったと思うが、支柱ごと折れてしまったらしい。

かわいそうに、偶然通りかかった人が巻き込まれて亡くなったそうよ、と母が眉をひそめて言っていた。

その人が僕の知っている人か、確かめる気にはなれなかった。

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この話はフィクションです。

当の本人がリムワールド漬けでろくに活動していなかったため、今日は作り話を置いておきます。

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